はじめにコーヒーありき・・・。名高いセイロンティーが世に誕生し、人気を博すまで
始まりは16世紀のことでした。それまで、インド洋に浮かぶこの美しい島には、先住民族の人々がいくつかの小王国を築いて暮らしていました。そこに野心溢れるポルトガル人たちがやって来て、島をセイロンと名付け、当時ヨーロッパで流行していたシナモンを栽培するための大農園を作りました。
17世紀になるとオランダ人たちもこの新植民地にやって来て、ポルトガル人征服者にこの肥沃な土地を手放すように迫ったのです。もちろん、先住民族の人々に返すためなどではなく、素晴らしい土地を自分たちのものにしたかったのです。
しかしオランダの支配は長くは続きませんでした。18世紀にはオランダに代わってイギリスが支配するようになり、20世紀末までセイロン島全体がイギリスの植民地支配下に入ることになりました。この頃にはシナモンの需要はずっと減っていたので、イギリスはこの島でコーヒー栽培を始めました。
このコーヒーは美味で、ヨーロッパで大人気を博したと言われていますが、19世紀末には害虫によりコーヒー畑は壊滅的な被害を受けてしまいました。そこで登場したのが、お茶なのです。すでに整っていたインフラ施設と、確立済みの貿易網を利用して、イギリスはすぐに紅茶事業を展開し始めました。やがて紅茶はコーヒー以上に有望な事業であることが分かりました。間もなくセイロンティーは世界的に有名なブランドとなり、「高品質」という言葉が枕詞のように一緒に使われるようになりました。
そして1972年、独立を認められたセイロン島は、
「祝福された土地」を意味する「スリランカ」という新しい国名前を冠するようになります。植民地時代を忘れ、過去と決別するため、人々は「セイロン」と名の付くものを全て排除しましたが、紅茶だけは例外でした。この名を消し去れば、せっかく築かれた世界ブランドを失うことになり、新たにブランドを築き上げるのに必要となる時間と労力は計り知れぬほど大きいことが予想されたからです。幸いにも、感情を抑えて理性的な判断がなされ、セイロンティーの名はそのまま残りました。今ではセイロンという名は忘れ去られていますが、セイロンティーは今でも現役です。